「ただいま、ラビ……」

「待ちくたびれたさ……おかえり」

「はい」

アレンはそのまま黙って、俺の気の済むまで抱きしめさせてくれた。
でも、そんな良いムードをぶち壊してしまったのは、アレンの可愛らしいお腹からの合図音だった。

「すいません…お昼から、何も食べてなくて」

もしかして必死に帰ってきてくれたんだろうか。

「ジェリーたちが、一杯作ってくれたから、まだまだある筈さ」

「はい!」

食堂に戻ろうとして、ふと気付く。
あれほどあった人の気配がないような気がする。
ようするに、静か過ぎるのだ。
戻ってみると、やはりあんなにたくさんいた人たちが誰もいなくなっている。
一瞬、伯爵側からの攻撃でも受けたのかと心配になったが、真ん中の一つだけ、不自然なほど綺麗に片付けられたテーブルの上に、ウェディングケーキかと思うほどの大きさのケーキと、まだ手の付けられていない美しく盛り付けられた料理が並んでいる。
ケーキの天辺にはなにやらカードが刺さっている。
手にとって見ると、あて先は『ラビへ』となっている。
二つ折りになっているそのカードを開くと、『アレンくんと二人きりでどうぞ』と、リナリーからのメッセージが女の子らしい文字で書かれていた。
どうやら気を使われてしまったらしい。
リナリーが、俺の、アレンに対する想いに気づいていたことには、さほど驚きはなかった。
そしてきっとリナリーだけじゃなく、もっと色んなヤツが俺の気持ちを知っているだろう。
当然だ。
俺に隠す気なんて、更々なかったんだから。
そんな皆がお膳立てしてくれた、アレンと二人きりの空間。

「何で、皆いなくなっちゃったんですか?」

「いつの間にか、パーティーは終わっちゃったみたいさね」

「そうなんですか…」

アレンは少し残念そうだった。

「アレンは、俺と二人きりじゃ、いや?」

「え!?そんな!嫌なんかじゃありませんよ!」

即座に否定してくれるアレンに、ホッとする。

「ラビこそ、今日の主役なのに置いていかれた挙句、僕と二人で良いんですか?」

やっぱりアレンは分かってない。
俺がどれだけ今、幸せを噛みしめているのか。
どれだけ、こんなスペシャルなプレゼントに、舞い上がってしまいそうなのを押し隠しているのか。

「皆にはさっきまで充分祝ってもらったし……寧ろ、アレンと二人で祝えて嬉しいんさ」

言葉で伝わらないのなら、想いの全てを乗せるつもりで俺はアレンを、熱の籠もった瞳でもって見つめた。

「そ、うなんですか…?」

いつもと違うアレンの反応。
顔が真っ赤になってるさ。
今度こそ少しは伝わった?

「俺さ、さっき、アレン待ってる間、寝ちまったんさ…そん時、夢を見たんだ」

「夢…ですか?」

「うん…その夢ん中で、マナさんにあった」

その名前を出した途端に、アレンの瞳が小さく揺れる。

「マナ、に…?」

「アレンを…大事な息子を、頼むって言われたさ…」

「マナ…が?」

「あれは、夢のようで、本当は夢じゃなかったような、不思議な感覚だったさ」

あれは本物のマナさんの意志なんじゃないかと思う。
それくらい鮮明で、リアルな夢だったのだ。
俺の言いたいことが伝わったのか、アレンの大きな瞳から、透明で綺麗な雫がぽとりと落ちる。

「マナさんにも頼まれたことだし、俺が全力でアレンを大事にするさ…」

「ラ、ラビっ!?」

アレンの眦に残る涙を、唇で掬い上げる。

「本気で、好きだから…アレン…」

夢で見た、色んな世界の『俺』に負けないように、俺も俺の世界の『アレン』を手に入れるために、今までしたこともないほどの必死さで想いを伝える。

「いい加減、俺の想いに気づいて?」

「ラビ…」

「俺を好きになって…?」

「僕、は」

「俺のモノに、なって?」

「ラビを…好きに、なっても良いんですか?」

胸にこみ上げる期待。
体中に熱く渦巻く歓喜。

「アレンに、好きになって欲しいんさ…」

「……好き、です…ラビっ…」

抱きしめる、確かな感触。
夢なんかじゃない、暖かな体温。
眩暈しそうな程、嬉しいって気持ち、今漸く俺にも分かったさ。

「やばい…嬉しすぎて、どうにかなりそうさ…」

「大袈裟、です」

「大袈裟じゃねえさ…どんだけ苦労したと思ってるんさ?」

「え?そうなんですか?」

まったく。やっぱり全然分かってなかったんだ。

「ま、良いさ。もう手にいれたから…最高のプレゼント、サンキュ…アレン」

「え!?僕、何も用意できなかったんです…けど?」

申し訳なさそうに、段々と尻すぼみになっていくアレンの声。
もう、本当にどこまで鈍感なんだか。

「貰ったさ!ほら、ここにある」

アレンの身体をすっぽりと包み込むように抱きしめて、主張する。

「ここ…って?」

「俺の腕ん中…アレンって言う恋人さ…」

「う…」

見事なくらいに真っ赤に染まってる、アレンの顔。

「安いプレゼントですね…」

「俺には、贅沢すぎるプレゼントさ!」

「ぷっ…あはは」

アレンが笑った。

「誕生日…おめでとう、ラビ」

今度はふわりとやわらかく微笑むアレン。
頭の中に蘇る、あのマスカレードの下の微笑んだ顔がふと重なる。
そうか。似ていると思ったのは、アレンにだったんだ。
血の繋がりはなくても、本当の親子だったんだよアレン。
なんだかそんな深い絆で結ばれた二人の関係に、ちょっと妬けるけど。



俺は俺なりに、アンタ以上に幸せにするって、約束するさ。

「ありがとう…」

宣戦布告と感謝の意を込めて、そしてアレン自身に最大の愛と感謝の意を込めて、俺はアレンのペンタクルへと口付けた。









Happy Birthday......
長い事お付き合いいただきありがとうございました!
ラビ誕、これにて閉幕です。
もう一ヶ月以上も経っているけど、ラビ誕生日おめでとう!!

 

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