happy medicine

「はあ〜疲れたさあ…」

「ご苦労様でした」

椅子にどさりと身を投げ出した、俺のすぐ傍のデスクにことりと芳ばしい香りを漂わせたコーヒーが置かれた。

「ありがとうさ、アレン」



ここはこの小さな町では唯一つの診療所である。
俺はその診療所の医者のひとりで、アレンは看護師のひとり。
今は夜遅くに飛び込んできた患者の一人を治療して、無事終えたところだった。

「なあ、アレンーーー」

「なんですか?」

アレンはカルテの整理でもしているのか、俺の方を見る事もなく、もくもくと仕事をしている。
本当に真面目な奴さ。
俺はそんなアレンの背後に近づくと、細い身体を後ろからギュッと抱きしめた。

「うわっ!ちょっと!なんなんですか!?」

「なあ…アレン〜俺の事、癒してさ」

「はあ!?」

「だってさ〜…俺、昨日に引き続き、連日で当直なんさ〜」

「はあ…」

だから何なんだ?って顔してるアレン。

「流石に二日連日じゃ、遊びにも行けないしさ〜」

今度はちょっと呆れたような表情になってるさ。
まあ、そんなことじゃアレンは同情してくれるような奴じゃないんだって、知っている。
だから切り札を使ってみる。

「しかも、俺。今日誕生日なんさ〜」

「ええ!?そうだったんですか!?」

そう。これは決して嘘じゃない。正真正銘、今日は俺の誕生日だった。
ここの院長であるジジイだって、聞けば証明してくれるだろうし、出勤してから、いろんな人におめでとうって言ってもらったし、プレゼントをくれる看護婦さんたちだっていた。
多分、知らないのはアレンだけかもしれない。
本気で知らなかった様子のアレンに、俺への関心の無さを突きつけられたようで、少しへこむ。

「そうなんさ〜」

「それは、おめでとうございます」

わざと哀れっぽく装っていった俺に、流石にアレンも可哀相に思ったのか、にっこりと微笑んでそう言ってくれる。
それだけで気分が浮上してくるなんて、俺も随分と易い男になったもんさ。

「でも、だったらなんで、前もって休み入れなかったんですか?」

入れようと思ってたさ。
因みに去年までは、きっちりこの日は休みを貰って、町に出ては綺麗なお嬢さんたちに祝ってもらっていたのだ。
今年もそのつもりだったんだけど。

「休み入れてたんだけどさ〜、んで、レストラン予約して誕生日祝ってもらおうとか思ってたんだけどさ」

「じゃあ、そうすれば良かったじゃないですか」

「…1番祝って欲しい子は、今日は仕事だって言うからさ」

俺はわざと含みのある視線でもって、アレンの目を見つめたんだけど。

「ああ、そうなんですか。それは残念でしたね」

って。この鈍感なカワイコちゃんには、簡単に通じるなんて思ってなんてなかったさ。

「だから、今、祝って?」

「は?今って……僕しかいませんけど?」

「だから。アレンに祝ってほしいんさ」

「僕は…誰かの……ですか?」

「え?」

アレンが何か言ったけれど、肝心なところはアレンが俯いてしまったのと、声が小さすぎて聞き取れなかった。

「いえ…祝うのは構いませんけど、でも今は仕事中ですよ?」

「仕事中って言ったって、今は急患もいないし、暇なもんさ?」

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