ああ、なるほど。リナリーなら知ってても、不思議はない。
それよりも気になるのは、俺の知らないところでリナリーと連絡を取っていたことだ。
それと、いつの間にかアレンがリナリーの事を、親しげに呼び捨てにしていたこと。
嫌な想像が、じくりと胸を焦がす。
「なんで、呼び捨て?リナリーのこと」
「え?ああ、リナリーがそう呼んでくれって」
『もうアレンくんは、私の執事じゃないんだから、リナリーって呼んで?これからはもう友達だよ』
「最初は何を言われてるんだか分からなくて…唯一つ分かったことは、僕は振られたんだって…」
リナリーにそのつもりはなかったんだろうけど、でも、リナリーがアレンのことを友人や家族以上には思っていないと言うことを、言葉の中から見つけたんだろう。
俺は、俯くアレンの頭をあやすように撫でる。
「でも、思ってたほど哀しくはなかったんです。それよりも、友達だと言ってくれた言葉の方が嬉しかったんです」
「…そっか」
「はい。それに、哀しんでいる暇もないくらい、坊ちゃんが手を焼かせてくださいましたから」
「……アレ〜〜〜ン」
「あはは」
折角いい雰囲気だったのに!
でもアレンが楽しそうに笑ってる。
アレンが笑ってくれてるなら、哀しむことがないならそれでいい。
アレンを笑わせているのが俺なら、アレンを哀しみから守れたならそれで良い。
アレンを俺に下さいって土下座して、アレンを絶対に幸せにするって、大切にするって、コムイに約束したから。
「アレンが好きなんさ…だから、俺の傍にいて?」
「………」
アレンからの返答はない。
やっぱりダメなんだろうか?
アレンの恋心につけ込んで、傍にいてもらう為に嘘をついた俺なんかじゃ。
「もう一つ、聞いても良いですか?」
「え、あ、うん。何さ?」
「…今まで、自分から何かを欲しがったことがないって、本当ですか?」
それは俺が想像もしていなかったような質問だった。
「え?何…で?」
「大旦那さんから聞きました。我が儘なヤツだけど、自分から何かを欲しいとか言ったりする子じゃなかったって」
今度はジジイか。
確かに俺は昔から、あんまり何かに執着するとか、何かを欲しがったりしたことはなかった。
女の子にも良くストライクとかするけど、自分だけのものになって欲しいとか望んだことも一切なかった。
どんな卑怯な手でも、プライドなんて捨ててでも、欲したのは。
「アレンだけさ…」
ことり。
アレンの頭が俺の胸の上に落ちる。
「リー家での生活も、リナリーの執事として生活することも楽しかったけど…」
「アレン?」
「貴方の傍に、もっといたいな…って…」
少しくぐもっていたけれど、何倍も澄んだ響きを伴って俺の胸の中に、その言葉はするりと入ってきた。
「それってさ…アレン…」
「貴方の傍に……いさせてください…」
ふつふつと湧き上がってくる慶びと愛しさに、目眩、しそう。
夢じゃないんだと確認するかのように、俺は腕の中に確かに存在する愛しい人をきつくきつく抱きしめる。
「嫌って言っても、放さねえさ…」
嘘も、我が儘も、大好きも。
全部、全部君だけのもの。
「ちょっと!いい加減にしてくださいよ!!」
「なんさ〜いいじゃん!」
「僕が、今、何をしていたか、知っていますよね?」
片手に箒、もう片手にはちりとり。
「ん?…うん、わかんない」
にっこり笑って、はいおしまい。
今は俺とのイチャイチャに、集中して欲しいさ。
「こらーーーー!!ちょっ!触るな!」
逃げた身体を引き戻して、俺の膝の上に座らせる。
「もう、何日掃除してないと思ってるんですか!?この部屋!」
「ん〜?さあ?」
「2週間ですよ!2週間!!」
「そういえば、そうさね」
うん、でも、仕方ないさ。
掃除なんかより、アレンとの愛の営みの方が何倍も大事なんだから。
「この部屋には、僕とラビ以外立ち入り禁止なんて言うから、僕以外、誰も掃除なんてしてくれないんですよ!?」
「大丈夫、大丈夫!人間多少汚くても、生きていけるからさ!」
「生きていけたとしても、僕は耐えられません!それに、こんな状態を放っておくなんて、執事としての僕の立場が!!」
「アレンは俺の執事じゃなくて、俺の嫁!って言ったさ〜」
「だったら、僕は、何でいつまでもこんな格好させられてるんでしょうか?」
こんな格好って。
黒地に白いレースがふんだんに付いた、ゴスロリ調の、所謂メイド服。
「だって、ほら。御奉仕、したくなるだろ?」
のほほんとそうのたまれば、途端にフルフルと小刻みに震えだす腕の中の小さな身体。
「こんの〜〜〜我が儘坊ちゃんがーーーー!!!」
「んが!!」
強烈な頭突きをいただきました。
心配は無用。
こんなんでも、幸せに暮らしてるんさ。