リー家と俺の家は爺さん同士が親友同士だったと言うこともあって、リナリーともコムイとも、幼い頃に遊んだことがあるから分かるんさ。
でもやっぱり、何が起こるか分からないが為に、妥協案としてリナリーもコムイも双方ともが納得したのが、アレンを付けると言うことだったらしい。
そう、アレンは女の子と見紛うような可愛らしい顔立ちと、華奢な身体をしてはいても、男の子。
昔から良く女の子と間違われては危ない目にあってたそうで、それが悔しかったアレンは、養父やらクロスやらから徹底的に、体術を学んだらしい。
リナリーの護衛にふさわしいかの試験では、自分よりも一回りも二回りも大きく屈強な、百戦錬磨のボディーガードたち5人をあっという間に伸したって言うんだから、驚きだ。
久々にあったリナリーはすっかり綺麗になって、なのに相変わらずのお嬢様とは思えないさばさばとしたその性格に好感を抱いて、近づいた。
完璧、リナリー狙いだった筈なのに。
「リナリー、今、帰りさ?」
「きゃ!?…もう、ラビ。びっくりしたぁ…」
馴れ馴れしく肩に手を回せば、即座にかの人物は俺たちのところに近づいてきて、引き離す。
「お嬢様に触らないで下さいと、何度も言った筈ですが?」
「え〜?良いじゃんさ、同じ学校の仲間なんだし、幼馴染なんだし、なあ、リナリー?」
「ダメです!絶対ダメ!!」
問われた本人より先にかの人物が声を上げる。
「ラビ様にだけは、特に近づけないように、コムイさんから言われていますので!!」
「何さそれ!…酷い言われようさ〜」
大してダメージも受けていないのに、俺が少し傷ついた表情を作って見せれば、その人物はちょっとだけおろおろとしている。
だがそんな様子に、ついうっかり口元を綻ばせてしまった俺に気付くと、再び眦を吊り上げてしまう。
だんだん、返ってくるアレンの反応が楽しくなってきて。
「と、とにかく、リナリーお嬢様にだけは近づかないで下さい!」
「ふうん…じゃあ、アレンには良いんさ?」
「はあ!?な、何言って…ぎゃあ!!」
俺は目の前にあったその身体をぎゅうううっと抱きしめた。
いつの間にか、アレン自身に会うことが何より楽しみになっていた。
そうしてアレンを見ているうちに、俺は気付いてしまったんだ。
アレンが、リナリーに、秘めた淡い想いを抱いていることに。
リナリーやその兄であるコムイには絶対に知られてはいけない、淡い恋心。
「アレンってさ…リナリーのこと、好きなんだろ?」
リナリーがやってくるまでの短い間に、俺はそう直球で切り出した。
「っえ!?…あ、ええ、勿論。リナリーお嬢様は勿論。リー家の皆さんも、こんな僕にでも優しくしてくれますから」
「………。そういうんじゃなくて、恋愛対象としてってことさ」
「そっ!そんなわけっ!ぼ、僕は、違っ!」
顔は見事なくらい真っ赤。声はひっくり返っているし、しかも文章になっていない。
そんだけ動揺していれば、否定なんかしてみても、まったくもって意味が無いように思う。
「誤魔化しても無駄さ。俺、そういうの聡いから。それに、アレン分かりやすいし」
真っ赤だった顔から、一瞬にして色が消えた。
「そ、そんなに…分かりやすいですか?僕」
誰かが誰かに恋をすることは自由だし、決して悪いことなんかじゃない。
リナリーがアレンを、一人の異性として好きになるならば、きっと身分なんて気にしないだろう。
彼女はそういう人間だ。
だけどアレンは違う。
アレンには、お嬢様とその人に使える執事という枷がある。
「お願いします!この事は、誰にも言わないで下さい!」
「なんで?別に悪いことじゃないさ?」
「ダメです!絶対ダメ!…こんなどこの馬の骨とも知らない僕を受け入れてくれて、優しくしてくれているリー家を裏切るようなことは―――っ」
「ふうん…良いけど?…でも、だったら、俺の言うこと、聞いて貰うさ…」
俺は、そんなアレンの健気な恋心に、付け込んだんだ。