<6>
いつものようにパーティ会場になる食堂は、今回は少しだけ違っていた。
本物とまでは行かないが、なかなかに立派な舞台が作られ、いつもはどんちゃん騒ぎになる会場内はしんと静まり返っていた。
皆が皆、その舞台に集中しているのである。
その中の特等席である席には、今回のパーティの主役でもあるジェリーの姿も勿論あって、とてもご満悦な様子で舞台の主役たちに熱い視線を送っていた。
物語のほうはとうとうクライマックスを迎えようとしていた。
ロミオとの幸せな結末を迎えるために用意したシナリオが、最悪で哀しい結末へと向かってしまうという場面。
ジュリエットが死んだと思い込んだロミオが毒を飲んで命を絶つ。
素人とは思えないラビの迫真の演技が、観客たちの涙を誘っていく。
そして死んだ筈のジュリエットが目覚め、傍らに倒れ臥しているロミオに気付く。
ジュリエットは仮死状態になっているだけだった。
ほんの少しの時間のずれが、自分の起こした行動がロミオを絶望へと導き死へと向かわせてしまったことに、嘆き哀しむジュリエット。
それを演じるアレンの演技も素晴らしく。
儚げでとても美しい。
愛する人を失った悲しみに、ジュリエットは短剣を自分の胸に突き立てるため大きく振りかざす。
そしてその刃が振り下ろされるという緊張の場面。会場中の人間が固唾を呑んで見守っていた。
いよいよ胸を貫かれると言う直前、ジュリエットの腕が何者かによって止められてしまう。
その『何者か』はまさしく傍らで息絶えていた筈のロミオだった。
「ら、ラビ!?」
シナリオにない突然の展開に驚いて、思わずアレンは役ではない名前の方で呼んでしまう。
会場にいる観客たちも『ロミオとジュリエット』という物語にはないシナリオに、みな唖然としていた。
「物語でも何でも、アレンが死ぬなんていうシナリオ。やっぱり耐えらんないんさ!」
アレンの手から握り締められたままだった短剣を取り上げ、後方にぽいっと投げ捨てると、未だに呆然としたままのその身体を抱き上げる。
「やっぱり愛しあう恋人同士の結末はハッピーエンドじゃないとな!」
「な!?ら、ラビィ!?」
そして驚いているアレンの様子もなんのその、ラビは見せ付けるように腕の中の愛しい恋人に口付けた。
「最っっ高よ!二人とも〜〜〜vvvv」
予想外の展開だったけれどとても好評で、特にジェリーには期待以上の最高のプレゼントになったようだった。
舞台袖ではリナリーが、最後の最後で芝居をぶち壊したラビの突拍子もない行動に面喰い、苦笑して、でもラビらしい最上のシナリオに嬉しそうに笑った。