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「え?…アレン、それって…」
「僕も出来るだけ協力しますから、がんばりましょう。ラビ」
自分が思いを馳せているのはアレンなのだということが、やっぱり伝わっていなかったことにラビは大きく落胆する。
いったい誰と勘違いしているのかも気になるところだけれど、それ以上に虚しい気持ちが胸の中を支配する。
アレンは自分のことを仲間以上に思ってはいない。
恋人同士になる確率なんてとても低いのだろう。
それでもラビはアレンのことを思い切ることなんて出来ない。
触れたくて触れたくてどうしようもなくなってしまう。
直ぐに触れられる距離にいるからなおさら、アレンに触れたいという欲求はどんどんおかしな位に膨れ上がっていく。
そう思ったら、どうにも止まらなくなってラビはアレンの頬に手を伸ばしていた。
「ラビ?」
「協力してくれるんならさ…」
自分でも何を言い出すのだろうと思う。
「練習させてくんない?」
でも、どんな理由でも何でもこじつけてでも、もう「触れたい」という感情は抑えきれないところまできてしまったのだ。
「練習って…?」
「告白の…さ…」
「良いですけど…どうすれば?」
「目…閉じて」
何の疑いもなく目を閉じてくれるアレンに、罪悪感と、それを上回る愛しいと思う気持ちが溢れ出して来る。
アレンの身体を自分の方に向けて、両肩に手を置きそのままぐいっと近くまで引き寄せる。
唇が触れ合いそうなほど顔を近づけてラビは低くささやくように告げる。
「好きさ…好きなんだ…」
思わず「アレン」と続けそうになった言葉は喉の奥に流し込んで。
そこで止める筈だった。
「ラ…ビ…?…今」
戸惑うように、アレンの大きな瞳が揺れていた。
「…っアレン…悪ぃ…」
最低だ。
アレンの優しさに付けこんで「協力」なんて言葉で騙した挙句、歯止めが利かなくなってキスまでしてしまった。
しかもアレンのあの揺れる瞳さえ見なければ、そのまま押し倒して無理矢理身体を奪うことも辞さなかっただろう。
アレンを残して部屋を飛び出したラビは、罪悪感を覚えながらもただ一人欲した人の唇に触れた自分のそれが熱く疼くのを感じていた。
ラビが出ていった後の部屋で、アレンは突然の出来事に暫くは身じろぎ一つ出来なかった。
「ラビと…キス…」
ラビと触れ合った唇は未だその熱を保ち、じんじんと痺れている。
同性からのキスだったというのに不思議と嫌悪感はなく、胸の鼓動と相俟っているかのように甘く疼いているかのようだった。
それに今も耳に残る、ラビが甘く低い声で囁いた「好きだ」と言う愛の言葉。
自分は唯の協力者でしかなく、仮そめの告白であると分かっている筈なのに、まるで自分がラビに告白されているようで胸の鼓動は速まり熱が上昇してしまっていた。
「ラビ…好…」
抑え切れないかのように、知らぬうちに溢れ出した感情そのままに唇から零れそうになった言葉を、咄嗟に途中で飲み込んだ。
「僕は…今、何を…」
震える手で口を覆う。
言葉にしかけて初めて気付く。
アレン自身気付かぬうちに、ラビを好きだと言う気持ちが着実に育っていたことに。
「どうしよう…ラビ、が…っ」
押さえ込もうとするアレンの思いを裏切ってまで、膨れ上がり溢れ出そうとする『想い』。
誰が聞いていなくても言葉にして出してしまったらだめだと、涙と一緒に喉の奥に流し込んで、大好きな人の為に出来る限り応援しようと再び心に決めた。
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