ジェリーの誕生日に向けて、本格的な芝居の練習が開始された。
ここ最近、上手い具合にアクマの襲撃が形を潜めているおかげもあって、この期間だけは、余程のことがない限り任務からは除外され、練習に集中できるように配慮されている。
その為、アレンと一緒にいられる時間が増えて、ラビは始終浮かれていた。
練習中は勿論のこと、芝居の打ち合わせと称して一緒にいられる時間を確保する。
(どこまで必死なんさ、俺…)
今も、練習を終えて食堂で芝居の話しをしながらアレンと食事を取る。
「明日は、あの有名なバルコニーでの逢瀬のシーンの練習さね」
『ロミオとジュリエット』と言う物語で、見せ場となるシーンの一つだ。
ラビが密かに楽しみにしているシーンでもある。
実際ロミオと言う男を、ラビはとても羨ましく思っている。まっすぐで、行動的で、告白一つ出来ないでいる自分とは正反対だと思う。
本当なら今すぐにでも告白したい。この腕に抱きしめたい。はっきり言うなら、抱きたい。自分の全てをそのアレンの華奢で白い身体に刻み込んでしまいたかった。
視線を隣に向ければ、愛らしいアレンの姿が瞳に映り、知らず知らずのうちにごくりと喉が鳴ってしまう。
「はぁ…(可愛すぎさぁ…アレン)」
「どうしたんですか?ラビ、溜息なんか吐いて」
ラビの口からあからさまに吐き出されてしまった溜息に気づいたアレンと、ずっとアレンを見ていたラビの瞳がばちりと合う。
が、咄嗟に動揺してしまったのは、アレンに対してヨコシマな感情の視線を向けていたラビだけで、アレンはというと不思議そうな視線を向けているだけ。
そこに想いの差を見せ付けられたような気がして、またしても溜息を吐きそうだった。
「もしかして…恋煩いですか?」
「……はいっ!?」
予想だにしなかったアレンからの問いかけに、ラビの思考は一瞬とまり、理解したときには派手に椅子を鳴らしてしまっていた。
そんなラビの様子に一切構うことなく、アレンは何か思案気に顎に手を当てている。
「う〜ん、相談に乗ってあげたいところですが、僕もあんまり恋愛には聡くないですし…」
「あ、いや、別に…」
まだ何も伝えていないのだから仕方ないこととはいえ、アレンの発言は、自分がアレンにとって恋愛対称になっていないのだという事実を突きつけられたようで、ラビは落ち込んでしまった。
「あ、リナリーなら何か良いアドバイスくれるかも…」
「なあ、アレン。やっぱり相談に乗ってくれる?」
自分の想い人である当の本人に恋愛相談なんて出来るはずもない。一度はそう思った。
だけど、逆にこれは一つの賭けではないのかと思い立ち、次の瞬間にはそう言葉にしていた。
「え?良いですけど…僕なんかで大丈夫なんですか?」
「アレンじゃないと、駄目なんさ…」
「それって、やっぱり…ラビが好きなのって、…」
特定の人の名前を続けようとして、アレンは続けられなかった。
「え?何?」
「あ、いえ…」
「じゃあさ、アレンの部屋に行っても良い?」
「はい」
ラビが立ち上がるのに倣って、アレンも立ち上がりその後に着いて歩き出す。
ラビの背中を眺めながら、アレンはツキツキと痛む胸をそっと抑えた。
to be continued...