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こつんと書棚に額を押し当てる。ほぼ同時に、背後でカツンとブーツの音がした。
書棚に押し付けた頭を起こしてあげた視線の先に、自分とは別の影が映っている。
背後を確認しなくても分かる。
更に狭まった距離に、ふわりと大好きな香りが鼻先に届き確信は深まる。

「具合でも悪いんか?アレン」

気づかないうち背後に立っていたのは、確信どおりの人物。ラビ。
今は一番傍にいたくない人。
近くにいるだけで、鼓動は早くなり顔に熱が溜まっていくのが分かる。
気づかれたくなくて、振り向けない。

「大丈夫ですよ。ただ少し疲れただけで…」

「アレン」

「ら、ラビも何か探し物ですか…僕の方は見つかったんで退きますよ?」

何でもない振りを装って、リナリーから頼まれたものとは全然違う本だったが適当に手に取り、少しでもその場から離れようとラビの横を擦り抜ける筈だった。
だが一瞬早くラビの腕が僕のすぐ横、書棚に手を着くようにして行く手を塞がれてしまった。

「逃げんなさ…」

「ラ…ビ?」

いつになく低めのラビの声。
それだけで動くことも、言葉を発することも出来なくなった僕をまるで囲うように、もう片方のラビの腕が伸びて退路を完全に塞がれた。

「最近、なんか俺のこと避けてる?」

「な…に言って…そんなことありませんよ」

「だったらこっち向いて、アレン」

ぎくりと体が震えてしまう。気づかれてしまっただろうか。

「変なこと言わないでくださいよ…早くリナリーに本届けないと」
 
やんわりと行く手を塞ぐラビの腕に手をかけて、どかそうと試みるが簡単には外れてくれない。

「どいてください…ラビ…」

「いやさ」

退いてくれるどころか、距離が縮まる。体温を感じられる程近く。

「逃げないで…アレン…」

「ラビ…?」

「アレンに避けられんのは…嫌われるのは、辛いんさ…」

切なげなラビの声。
自分勝手な感情のせいで、勝手に距離を取り、そのせいでラビを傷つけてしまったことを知る。

「違います!違うんです…ラビのこと嫌ってなんていません…僕は…」

言葉の途中で振り返った僕の体が、ぐいっと強い力で引き寄せられかと思った次の週間、想像以上に力強いラビの腕に抱きしめられていた。

「好きなんさ、アレン…」

「え?」

「俺のヨコシマな感情に気づかれて、それで嫌われたんかと思った…」

少し身じろいだだけで、まるで逃がさないとでも言うかのようにラビの腕の力が強まっていく。
嘘じゃないと示すかのように、ラビの速い胸の鼓動が押し付けられた僕の耳に届く。

「本気で好きなんさ…好きになれなんて言わないから…だから、せめて俺を嫌わないでくれ…俺から逃げないで…」

いつも自信満々なラビからは想像もつかないような、縋るような弱気な台詞。

「そんな事言われても、困ります…」

びくりとラビの体が震える。視線を上げると、辛そうなラビの顔が見えた。
違うんです。
伝える代わりに、ラビの背中に腕を回しそのまま今度は僕のほうから抱きついていく。

「もうとっくの昔に、ラビのことを仲間以上に想ってたんです…だから言わせてください…」

「ア…レン?」

「ラビのことが…好きです」

再びきつくきつく抱かれた。その甘い痛みは夢じゃないんだと、確信させてくれた。





 

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