2.呼び名

「なあんか、気に食わないさぁ…」

午後のひとときの、まったりとした雰囲気を壊したのはラビのそんな一言だった。

「どうしたんですか?突然に」

芳しい香りの紅茶に、ジェリーお手製の美味しいスコーンとブルーベリージャム。
そして何より、恋人同士二人きりの空間。


二人が仲間と言う関係から、恋人と言う関係になったのはほんの1週間前の事。
ラビからの告白を、あっさりと受け入れたアレンだったが、浮かれたラビに「二人の関係を内緒にする」という釘をさす事だけは忘れなかった。
まあ、アレンをはじめ周りが思っている以上に独占欲の強いラビが、アレンに気付かれない所で周りを威嚇しているので薄々気付かれているだろうが。
それでも、あくまでも恥ずかしがり屋の恋人の所為で人前でなど決してイチャつけない分、二人きりになると胸焼けしそうなほど甘い空気を作り上げることもある男が、今日に限っては少し不機嫌そうに頬杖をついている。

「ラぁビ?」

覗き込むように、視線を合わせてきたアレンの可愛さに、ラビはそのままその身体を引き寄せ抱きしめる。

「どうしたんですか?ラビ」

あやすように背中をぽんぽんと叩かれるアレンの手の感触。

「何か、僕に怒ってるんですか?」

「違うさ!」

切なげに紡がれたアレンの言葉に、ラビは咄嗟に否定した。

「アレンに怒ってるわけじゃねえさ」

数分後の沈黙の後、ラビは一旦溜息をはくと心情を吐露し始めた。

「アレンは…俺の恋人だよな?」

一旦身体を離して真正面から真剣な表情で見つめ、今更何を確認するのかそんなことを言い始めたラビに、アレンは見る見るうちに真っ赤になっていく。

「は?い、きなり何ですか?」

なんでもない風を装って言葉にしてみても、顔の紅さがそれを裏切っていることにアレンは気づかない。
そんなアレンの様子に、聊かラビの機嫌も上昇するがそれでも拗ねたような表情をしてみせる。

「俺、アレンのこと『アレン』って呼ぶだろ?」

「は?そりゃ、まあ…」

ラビの言葉に、アレンの周りを更にクエスチョンマークが飛び交っているようだ。

「そんでもって、大体の奴はやっぱり『アレン』って呼ぶだろ?」

「それは、僕の名前は『アレン』ですから…ね…」

ファインダーの中には『ウォーカー』とセカンドネームの方で呼ぶ人がいるけれど、大多数の人は親しみを込めて『アレン』とファーストネームの方で呼んでくれる。
そんなことは当たり前の事だし、今更なのに、その事がラビの不機嫌な理由とどう結びつくのか、アレンには少しも見当がつかない。

「でも、ユウだけは『もやし』って呼ぶだろ?」

「ええ、そうですね」

途端にアレンの声の温度が若干下がったことに、熱く語り続けるラビは気付かない。

「恋人なんだから、俺も、特別な呼び名でアレンを呼びたいんさ!」

スコーンをとりに行った時に食堂でばったり会った、神田とアレンの日常茶飯事と化した『ケンカ』と言う名のやり取りは、他の人の目にはどう映ろうとも、ラビにとっては嫉妬の材料になってしまう。
神田に接するアレンの態度が、例えアレン自身にその気は皆無でも、他の者に接する時と違うのでどうしても特別に思えてしまうのだ。
そして神田が呼ぶ『もやし』と言うあだ名も、アレン自身気に入っていない呼び名だとしても、神田だけが呼ぶことが出来る特別なものに思えてしまって、ラビはずっとやきもきしていたのだ。

「へえ…」

更に温度が下がったアレンの声に、ラビはようやく気付いて凍りつく。

「ラビも僕のことを……『もやし』とでも呼ぶつもりですか?」

『もやし』と言う単語の前にあった『溜め』が余計にラビの背筋を凍らせる。
顔は笑っているのに、アレンの後ろに真っ黒いオーラが見えるかのようだった。
黒アレンの降臨である。

「ちっ、違うさ!!」

アレンが不機嫌になったからの否定だけじゃない。
ラビは自分だけが呼べる特別な「呼び名」が欲しいのだ。
もっとアレンにとって自分が特別だと言う証が欲しかった。

「そうですか」

降臨した時同様、すぐさま黒さが消えていつものアレンに戻ったことに、ほっと胸をなでおろす。

「アレンが嫌がってる呼び名で呼ぶなんて、本意じゃねえし、それにユウと一緒じゃ特別にならねえさ」

周囲には内緒にしている(アレンはそのつもり)二人の関係だけれど、アレンだってラビが好きな気持ちに嘘偽りはない。
だからラビにとって自分が『特別』だと思ってもらえるのはとても嬉しかった。

「じゃあ、ラビはなんて呼びたいんですか?」

「ハニー♪」

「何言ってんですか?」

「だから、ハニーvv」

「却下です!」

ラビの特別であることが嬉しかったから、少しのことくらい多めに見てあげようかと思ったが、自分とラビが付き合っていることがバレバレな、しかもそんな背中が痒くなりそうな恥ずかしい呼び方など了承できる筈もなかった。

「なんでさ!アレ〜ン!」

「そ、そんな顔してもダメです!」

「マイスィート、ハニー!」

「大・却・下です〜〜〜!!」

そんな攻防の末。

「アレ〜ン!機嫌直してくれさ〜〜〜!」

結局はいつもの呼び方が(アレンの機嫌の為にも)一番だと思い直す、ラビなのでした。




ちゃんちゃん。









「全くもう…ラビの声で呼んでくれる…それだけでもう充分特別なのに…」






ユタカくんのブログでも、あゆみちゃんのブログでも話題になっていた「ハニィvダーリンv」。
ユタカくんちのティキラビが「ハニィvダーリンv」だったら、桜ちゃんとこのアレ神は「ハニィvばかやろう!」もしくは「ハニィv死ね!」でうちのラビアレは「ハニィv何、言ってんですか?(怒)」かもね〜...。
って言うのが発端で出来ました(笑)
丁度お題に「呼び名」があって、一気に書きあがっちゃったvvいつもこの調子なら良いんだけど…。
何はともあれ、いつも拍手ありがとうございますvv
少しでも御礼となっていたら幸いです♪

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