「は〜、気持ち良いさぁ」
山の空気はとても涼しく、しかも澄んでいて気持ちが良かった。
その空気を肺が一杯になるほど大きく吸い込む。
上を見上げればキラキラと輝く、たくさんの星。
「こんな風に、アレンと見たかったさ…」
去年の夏は、まだ先輩と後輩と言う間柄だったけど、楽しかったのに。
一人で見上げる夜空は、それなりに綺麗だったけれど、なんだか寂しい。
それでも暫く空を見上げていた俺が、肌寒くなってきてそろそろ部屋に戻ろうかと思っていたときだった。
「は、くしゅっ!」
10メートルほど先の暗闇から、それは聞こえてきた。
「誰か、いるんさ?」
俺は相手を驚かさないように、わざと音を立て近づくと、声を掛けた。
「え?ラビ、先輩?」
その声は、間違いようもない。
もうここ最近、考えていない時はないんじゃないかというくらい想っている相手、アレンの声だ。
アレンは、近づいてきたのが俺と認識した途端、きびすを返して逃げようとした。
「ちょっ!待つさっ、アレン!」
悪いけど、リーチなら俺のほうが上さ。
自慢の長い足でアレンとの距離を詰め、長い腕をめいっぱい伸ばして細い腕を掴みあげる。
「逃げんなよ!」
「嫌だ!放してください!」
「何で、俺から逃げるんだよ!?何で、俺を避けようとするんさ!?」
俺の質問には一切答えようとせず、アレンはただ闇雲に俺から逃れようと暴れるだけ。
いい加減に、俺の我慢も限界だった。
アレンの細い手首をぎりぎりと握り締めたまま、俺は暗い夜道を歩き出す。
「ちょ、どこ行くんですか!?」
街頭も、懐中電灯も何も照らすもののない状態では、道があるかどうかも分からない。
でも俺はその暗闇の中を黙々と歩き続ける。
「ら、ラビ先輩?」
殆ど何も見えていないアレンはきっと物凄く不安なのだろう。
さっきまでは振り払おうとしていた手が、今は縋るように俺の手首を掴んでいる。
俺はただ適当に歩いているわけじゃなく、とある場所を目指していた。
毎年、二日目の日程に含まれている散策ルートの途中にある、山小屋だ。
山の中の散策ルートはほぼ一本道で、迷うことなどないけれど、突然の雨に降られたときの為などの緊急用に作られている小さな小屋だった。
俺は記憶力にも自身があるほうだ。こんな暗闇だろうとそれは問題はなかったらしく、40分も歩いたところで、迷うことなくその山小屋へと辿り着いた。
聊か乱暴にアレンをその中へと押し込むと、俺は後ろ手に鍵を掛ける。
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