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アレンはそのまま、一言も言葉を発しないラビに引っ張られるまま自室へと連れ込まれた。

「どうしたんですか、ラビ?女の子にあんな態度…ラビらしくないですよ?」

握られたままの手は未だに放されない。

「…嫌だったんさ…」

「何が?」

「アレンが…例え義理でも何でも、チョコを受け取るのが…ましてや本命なら尚更っ…」

大人気ないことも、器量が狭いこともラビ自身が一番自覚していた。
でも誰に何と思われようとも、事アレンに関してだけは譲れない想いがある。
たかがイベントだと笑って許すことも出来ないほどの想い。

「義理とか、本命とかっていったい何のことを言っているんですか?」

「へ?」

緊張感も何もないアレンの言葉が今までのシリアスなムードをぶち壊す。
だから思わずラビも間抜けな声を出してしまったいた。

「…って言うか、あれって…あの箱の中身ってチョコレートだったんですか!?」

ラビの想いなど露知らず、アレンは「どうして断っちゃったんですか!?」なんて悲壮な声を上げている。

「あ、あの、アレンさん?」

「何ですか?」

恨めしそうなアレンの瞳にじっとりと睨まれて、ラビはがっくりと肩を落とす。

「今日が何の日か知ってるさ?」

「え?今日ですか?今日って…2月14日?…何かありましたっけ?」

とぼけてる訳でもなんでもなく、必死に記憶を呼び起こしているらしいアレンの様子を見る限り、どうやら本気で今日という日がどんな日なのか分からないらしい。
そこでラビはアレンの今までの境遇を思い出して、何となく納得する。
血の繋がっていない育ての親であるマナとの生活は、裕福とは程遠かったらしいから知らなくても無理はないだろう。
その後の、彼の師匠であるクロスとの生活は、それこそ裕福どころか師匠が作った借金に負われる過酷な日々だったらしいから、やはりこの日のことを知らないというか知る余裕すらなかったのだろうと思う。

「今日はバレンタインって言う日なんさ」

「バレン…タイン?」

「そう、バレンタイン。好きな相手に贈り物をする日なんさ」

何も知らないアレンに、ラビは大まかな説明をしてやる。

「いつからか好きな相手だけじゃなく、お世話になった人への感謝の気持ちだとか、イベントって言うノリでチョコを渡すようになったんだけどな」

かなり色んなことを端折った説明だったが、アレンは納得したようだった。

「分かった?アレン…彼女たちのあのプレゼントが、例え義理だったとしても、今日だけはアレンが他の誰かから何かを貰うのは嫌なんさ…」

先ほど食堂で見た時はなんとも思わなかった光景だったが、正しく理解した今になってみると嫌だと思った。
もし彼女の想いが本物の恋愛感情だったら。
ラビがその想いを知っていて、それを受け取ったことを想像しただけでも胸が苦しくなってしまう。
アレンの指が、ラビの服をきゅっと握る。

「確かに…僕も、嫌…です」

恥ずかしがりやなアレンからの、ヤキモチという素直な感情を言葉にしてくれたことで、ラビの心は急速に満たされていく。

「はい、アレン」

ポケットを探ってラビが取り出したものは、シンプルだけれど綺麗にラッピングされた箱だった。

「俺のだけで、我慢して」

「ラビ…これは?」

「正真正銘の、本命チョコさ」

開けてみて、と促されてアレンは遠慮がちに包装を解いていく。
中から出てきたのは可愛らしい小さなハート型のチョコたち。

「ラビ……ありがとうございます」

嬉しそうにはにかんだかと思うと、何かに気付いたようにアレンの嬉しそうな表情が見る見るうちに萎んでいく。

「アレン?」

「ごめんなさい、ラビ…僕は、何も用意してないのに…」

本気ですまなさがるアレンに、ラビの中のアレンを愛しいと思う気持ちは益々膨らんでいく。

「良いんさ、そんなこと…俺があげたかったんだから…ほら、チョコ食うさ」

アレンの手のひらの上に乗せられたままの箱から一つ取り上げると、アレンの口元にそれを運んでいく。

「でも…」

「じゃあさ」

「むぐっ!?」

遠慮して食べようとしないアレンの口に無理矢理そのチョコを咥えさせたのだ。

「アレンごと貰うさvv」

そう言ったが早いかアレンの細い身体を抱きしめて、先ほど口に咥えさせたチョコを奪い取るとそのまま唇を重ね、舌を絡めていく。
ラビの舌の熱さで解かされたチョコレートの甘さがアレンの口内にも流れ込み広がっていく。

「ら、ラビ!?」

「だって、アレンそのものがチョコレートみたいさvv」

見た目は勿論、ラビに甘い感情と幸せをくれるアレンの存在そのものが、バレンタインのチョコレートみたいだと思った。

「ね?だから、アレンを頂戴」

今までのおちゃらけた雰囲気とは違う、甘く低い声で囁かれてアレンの頬はますます紅く染まっていく。
きっとこの甘く幸せなこの腕から逃げられるわけもなく。そして逃げる気などないアレンは小さく、それでもはっきりと分かるように頷いた。

そんなアレンの様子を見て、ラビはこんな素晴らしい贈り物をくれたリナリーとミランダに心の中でこっそりと礼を言う。

「こんな贈り物なら、喜んで貰うさ」

「何?ラビ」

「何でもないさ…」

チョコより遙かに甘い腕の中の愛しい人に、ラビは再びキスをした。




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